「あ、あの・・・すいませんがそれは一体・・・」

恐る恐る、まさにそんな表現がぴったり来るなと自分でも思いながら俺は尋ねる。

「ふふっ、実はね、この子がイスカンダル大王にお願いしたのよ。ね?」

「・・・はい・・・私、勇者様に・・・」

「いやちょっと待ってくれ」

その子が言った聞き捨てならない言葉に思わず口を挟む。

「その・・・勇者様って俺の事?」

「・・・」

頬を赤らめてこくんと頷く。

「待ってくれないか?俺はそんな大層な人間じゃない。君達から見ればただの侵略者じゃないのか?」

いくら民間人への被害は最小限に留めていても戦場で死んでいった兵士には家族がいただろう。

遺族から見れば俺達は憎んでも憎み足りない怨敵のはず。

どう転んでも賞賛される立場では無い。

「そ、その様な事はございません!あの時勇者様は私やお母様を・・・」

「へ?君とお母さんを・・・ってもしかして」

先程からどうもどこかで見たような気がしてならなかった訳だ。









あれはイッソスの戦いも終わり近づいた時。

「報告いたします。ダレイオス大王率いるペルシア軍これ以上の交戦を断念!撤退を始めました!」

「よし!騎馬軍団、歩兵軍団、追撃を開始せよ!追い詰める必要は無いが叩けるだけは叩け!」

伝令の報告を受けて、追撃を命じるイスカンダル王にもう一人伝令が駆けつける。

「報告いたします!放棄されたペルシア軍本陣に敵兵無し!また多数の財宝らしき物が残されています」

「よし!直ぐに接収せよ!凱歌と共に持ち去るぞ!」

「それと今盗賊団と思われる一団が近づいております。連中も財宝が目的と思われますが、それについては・・・」

「何!それは認めんぞ!この戦場で手に入れたからにはそれらの財宝は全て余の物!!」

自分は略奪するくせに人の略奪は認めないと言う理不尽きわまる論理だが、本人曰く、『夜陰に乗じてこそこそと持ち出すのは卑劣な匹夫の夜盗、凱歌と共に堂々と持ち去れば勇敢な征服王の略奪』との事。

だが、イスカンダル王の義憤めいた私憤は次の言葉で本当の義憤に変わった。

「また、本陣には数名ほど女性もおります。身なりも相当なことからダレイオス大王の縁者かと・・・」

「何?・・・エミヤ、お主直ぐに赴き、あの益荒男の縁者を助けてまいれ。敵味方に分かれたがあの男は本物の英傑、その縁者に危害が加えられるのを指を咥えて見ておった等このイスカンダル一生の恥」

「御意」

言われるまでも無く、俺はすぐさま脚に強化を施し、馬と遜色ない速度で戦場だった地を駆ける。

やがてペルシア軍本陣後まで到着すると、確かに盗賊団と一目瞭然の姿格好をした男達が本陣の一角・・・ダレイオス大王の天幕周辺に固まっている。

そこからは複数の女性の悲鳴、そして盗賊団の『売ればいくら位になるか』、『その前に俺達で味見するか』と欲望丸出しの声が聞こえる。

それを見過ごす理由等ない。

「投影開始(トーレス・オン)・・・吹き荒ぶ暴風の剣(カラドボルグ)!」

真名と共に解き放たれた一閃は周囲にいた盗賊団数名の首を一瞬の内に刎ね飛ばす。

それに生き残りがようやく俺に気付き、視線を集中させる。

血の気の多い奴の中にはあまり手入れをしていない短剣や剣を構えている。

「よく聞け!盗賊共!ここの本陣は既に我らマケドニア軍が制圧した!おとなしく立ち去るならばそれで良し!下らぬ欲に囚われ、ここにあるものに手を付けようと言うならば、我が王イスカンダルに成り代わり貴様らを処断する!」

一応、最後通告を行う。

ここで逃げ出すならば見逃そうと思ったが、相手は俺一人と見て高を括ったか、一斉に襲い掛かる。

だが、数に物を言わせた攻撃等、あの池田屋事件で反幕府側の精鋭達と刃を交えた死闘とは比べ物にならないほどお粗末。

たちまちの内に全員を斬り殺す。

その後、全員の死を確認してから天幕の中を確認する。

そこにいたのは、明らかに高い身分を思わせる二人の女性がいた。

見た目での歳から考えて親子と考えるのが妥当。

ならば彼女達は

(ダレイオス大王の妃と娘かな?)

そんな事を考えていると、あろう事か二人揃って持っていた短剣で自決しようとしていた。

それを慌てて止めて(短剣を強引に取り上げて)、それでも尚自決しようとする二人を宥めすかしイスカンダル王の到着までどうにか生かす事に成功した。

後はイスカンダル王得意の滅茶苦茶だが、反論が出来ない論破によって二人は落ち着きを取り戻した(毒気を抜かれたとも言うかもしれない)。

その後わかった事が、この二人はやはりダレイオス大王の妃と娘で、その娘の方がここにいる。

確か名前は・・・

「スタティラ姫??」

俺が記憶を辿るように呟くと少女・・・スタティラ姫は花が咲いた様な艶やかな笑顔を見せる。

「やはりか・・・だけど何で、イスカンダル王にそんな事を?」

思わぬ事に先ほどまでの出来事など忘れて、スタティラ姫に肝心な事を尋ねる。

「そ、その・・・あの時、お母様の影から勇者様の事をこの目で見た時に心を奪われて・・・」

「へ?」

思わず呆けた声を出す。

あの時は、宝具で先制攻撃を食らわせて、それから最後通牒を下してから襲ってきた賊を全員切り殺した・・・

何処をどう考えてもそんな女性の心を掴むような事をした覚えなんてないんだが。

俺の呆けた表情を見たのか補足するように更に告げる。

「剣を握り、大勢の盗賊を前にしても怯まず堂々と戦う勇者様のお姿が・・・」

見る人によってはそうなるのか・・・

「さ、まじめな話は終わりよ坊や」

と、そこへ娼婦の女性の声が俺を我に帰らせる。

何しろ俺は全裸の上に、未だ射精していないので肉棒が未だ鎌首を持ち上げて解放を欲している。

それを腰布などで隠す事もせずに見せ付けている状態。

見ればスタティラ姫も俺の姿に気付いたらしく、顔を真っ赤にして、視線をそらしている。

それでも興味があるのか、横目でちらちら見ているが。

「あ、あの・・・あんな大きなものが・・・」

「ええ、姫様。あれが姫様の中に入ります。でも姫様幸運ですよ」

「え?」

「だってあんな若さであれだけ立派なものをもっているなんて殿方なんてそうそういませんよ。それに性格も誠実と聞いています。そんな殿方が初めてなんですから姫様はお喜びになるべきですよ」

そんな評価一体誰が言った・・・そんなおせっかいな事をする人物の心当たりが多すぎる。

「それと坊や、これ」

と娼婦の女性が俺に羊皮紙の巻物を差し出す。

「??これは」

「イスカンダル王から貴方に」

嫌な予感しかしないが読まない訳にもいかない。

観念して丸まった巻物を広げて読む・・・更に観念した。

『エミヤ、イスカンダルたる余の命である。据え膳食ってみろ』

たったこの一文だけだった。

「ストレート過ぎるだろう・・・」

脱力して寝台に突っ伏す。

心なしか萎えた気もする。

「あ、あの・・・大丈夫ですか・・・勇者様」

と突っ伏した俺に恐る恐るスタティラ姫が呼びかける。

「あ、ああ・・・すまない。うちの王のあまりな命令に脱力していた」

「い、いえ・・・」

「それで・・・スタティラひ・・・」

そこで遮られる。

「あ、あの・・・お願いです。私のことはスタティラと・・・勇者様」

「その・・・すまないけど勇者様ってのは止めてくれるかな。どう考えても俺に似つかわしくないと思うし、何より落ち着かない」

「では、どうお呼びしたら」

「じゃあシロウ、シロウで良いよ」

「シロウ・・・シロウ様ですね」

「いや、様もいらないんだけど・・・それと本当に俺で良いのか?脅す気はないけど、俺、こういった事は今日が初めてでさっきの女性しか知らないんだ」

まあ、俺の屋敷にはそう言った関連の本やビデオ(バイト先でもらったか、師匠達が無修正の代物もある)し、俺もお世話になったから、方法がわからない訳ではないが、正直女性をリードできる自信はない。

ましてやスタティラは間違いなく処女と見て良いだろう。

さっきも『初めてが・・・』云々と言っていたのだから。

「構いません。私シロウ様を一目見た時に心を奪われました。シロウ様でしたら私の純潔を捧げても良いと・・・」

スタティラの言葉を遮り更に俺は告げる。

「それに・・・イスカンダル王からは聞いていないと思うけど俺は」

どうやっても俺はこの世界からいずれ帰る身、やる事だけやって後始末もせずにトンズラなどどう考えても無責任すぎる。

と、そこへ意外な返事が返ってきた。

「存じております。シロウ様がこの世の人間でなくいずれ私達の手が届かない場所に行ってしまうと」

「イスカンダル王からかい?」

「はい。私はそれを聞いても尚シロウ様に全てを捧げたい、そう思ったんです。イスカンダル王からは『よく考えて見よ。お主の純潔を捧げてよいかどうか、捧げて悔いは無いかを』と」

なるほど・・・流石にイスカンダル王も最大限配慮はしてくれたようだ。

「で、考えても決意は変わらなかった」

俺の問い掛けに無言で首を縦に振る。

それらも知った上でイスカンダル王もこの一文なのだろう。

ここまで覚悟を決めている以上俺も腹を括るしかないのだろう。

「・・・可能な限り優しくするけど確実に痛い事はするから」

「は、はいっ、ふ、不束者ですが」

そう言うスタティラを抱き寄せてそっとキスをする。

「あっ・・・ふぁ・・・」

俺としてはいきなりハードな奴をするのもどうかと思ったので、まずは唇が軽く触れる程度のしたのだが、それすら彼女には強烈だった様だ。あっという間に腰砕けになってしまう。

「お、おい・・・大丈夫か?」

「あ、はい・・・これが・・・接吻なのですか・・・」

その言葉に頷こうとしたが、そこに隠された意味を悟り、確認を取って見る。

「えっと・・・スタティラ、もしかしなくてもこれって・・・」

「はい・・・私の初めての接吻です」

やはりか・・・まあ大帝国の姫君だから当然か・・・

とにかく気を取り直し、スタティラが来ているほとんど透けて見える服を脱がせる。

それに抵抗するでもなく従うスタティラ。

そこに現れたのは歳相応の少女の瑞々しい肢体だった。

胸部は先程に比べれば見劣りするが、それを補って余りあるのが怯えと期待の入り混じった彼女の表情と王族であると言う事実。

亡国とはいえ、一国の姫を俺が好きに出来る上、彼女の処女を奪う事が出来る。

その興奮は初めて女性を抱くと言う事に匹敵する。

だが、相手は初体験、おまけに俺とはどう足掻こうとも結ばれる事はない。

いわば行きずりの関係に近い。

そんな彼女にせめて良い思い出としての初体験は残してあげたい・・・身勝手極まりないだろうが俺はその時正直にそう思った。

本能のままに彼女を蹂躙したいと言う欲望を押さえ込み(というかそれを出来る技量があるとも思えないが)、俺は舌をまず首筋に這わせる。

「っ・・・」

突然の事に身体を震わせるが、抵抗するそぶりもなくただ眼を閉じて俺の行為を受け入れる。

そんな彼女を尻目に首筋から鎖骨、そして慎ましくも確実に存在する膨らみを上り、その頂の先端を舌先でつつく。

「っはぁ・・・」

短く声らしきものを零すが再び口を噤む。

喘ぎ声を出すのを恥ずかしがっているのか、はしたないと思っているのかは不明だが声を出すのを必死で我慢している。

これも初々しいが、やはり淫らに喘ぐ彼女の姿も見たいと思ってしまう。

そこで俺は両手はスタティラの胸を愛撫しつつも舌の標的は更に下を目指す。

そして目標・・・スタティラの秘部をその視界に収める。

そこは清楚とした彼女を表す様に、ぴっちりと閉じられている。

だが、その秘部は俺の愛撫でなのかそれともこの娼館の空気に当てられた為なのか、すでに愛液に塗れている。

おまけに秘部の上部にある女性の最も敏感な突起の皮は剥け、外気に晒されている。

「・・・濡れてるし、皮も剥けている・・・」

思わず呟いた俺の声が耳に届いたらしく、ようやくスタティラが俺が今何を見ているのかに気付いた。

「し、シロウ様!!だ、駄目ですっ!!そのような所を見ては!!」

今まで以上に慌てた声で脚を閉じようとするが、間一髪で股の間に顔を入り込ませると舌でスタティラの秘部を愛撫し始める。

まあ愛撫と言っても慎二から強引に押し付けられたアダルトビデオ(どういった経路で入手したのかモザイク無しの奴だった)の見よう見まねでやっているのでお粗末かつぎこちない愛撫だが。

だが、された方はと言えばそれ所ではない様子だった。

「や、やあああ!汚い、そこは不浄の場所です!!シロウ様舐めないで!!」

「大丈夫だからスタティラ。汚くないから」

俺は口ではそう言いながら舌での愛撫は止めない。

縦横に愛液を舌で舐めとり、潮に似たその味を味わい、時には秘唇の部分を口で含み、中から滲み出てくる愛液を掻き出すように嚥下していく。

「あっあっあっあっあーーーーっ!!」

悲鳴に近い喘ぎ声を出しながらただただ俺の愛撫を受け入れる。

そして俺が止めとばかりに舌で掻き出しながら音まで立てて愛液を啜り出し、舌を大きく上下に動かしてその拍子に露出した突起を弾く。

その衝撃と快楽にスタティラはひときわ大きな声を上げて絶頂に追い遣られる。

「あぁぁぁっぁぁぁ!!」

俺の顔面に目掛けて潮を吹く。

「いったな、どうだったスタティラ・・・って」

「ぁぁ・・・ぁ・・・」

初めての絶頂だったのか、半ば虚ろな視線を虚空に彷徨わせている。

「やりすぎたかな」

苦笑しながら頬をかいて反省の弁を述べる。

最初は欲望に流されないようにと思っていたのだが、途中からそんな考えは吹っ飛んでしまった。

おまけに、俺のほうはまだ満足していない。

いや、通常ならば触れる事すら出来ない姫君を好き放題喘がせたという事実は精神面を満足させていたが、やはり一度も射精していないのが未だにその鎌首を上げて欲望を吐き出す事を望んでいる。

見れば、未だに荒い息を吐き、胸や秘部を隠す力もないのか俺にその魅惑的な肢体を曝け出しているスタティア。

知らず知らずの内に生唾を飲み込む。

そこからは無言でスタティラの足を大股開きにして、もはや限界まで膨張する俺の肉棒をまずは添えて、いつでも挿入開始出来る様にする。

「ぁ・・・あん・・・」

肉棒に触れた感触で我を取り戻したのか虚ろな視線を俺に向ける。

「ぁぁ・・・」

「いいなスタティラ、もらうぞ処女」

「はい・・シロウ様・・・私の純潔の証、奪って下さい・・・」

その返事を聞くと同時にゆっくりと沈めていく。

その途端かつてない快感が俺を襲う。

「ぅぅっ!」

「!!ぅぁぁぁぁあ!」

スタティラの悲鳴にはっとした時にはすでに俺の肉棒はスタティラの秘部の根元まで埋まり、その境目からは純潔の証たる鮮血が滲み出ていた。

「くぅぅ・・す、すごい・・・搾り取られる・・・と、止まらない」

「くっぁ!うぁ!」

もっと速度を落としスタティラの苦痛を和らげたい所だったが、そんな俺の意思に反して身体は相手の気遣う事など眼中に無いとばかりに、腰を動かし快楽を貪り続ける。

一方のスタティラは苦痛に呻き声を発し、目尻に涙を浮かべながらも俺を抱きしめ俺の暴虐とも言っても差し支えないピストン運動を必死に耐えている。

そんな彼女に俺に出来る事はと言えば、せめて彼女を抱きしめ返し、少しでも気を紛らわせる為に触れるようなキスを繰り返す。

「くううう・・・ご、ごめんなスタティラ・・・と、止まらない。で、出るぞ!」

「あっはっあっはっ・・・え、え?で、出る??」

俺の言葉を理解できなかったのかそう問い返してきたスタティラだったが、俺はそれの説明する暇も無く

「うおおおお!」

獣の雄叫びじみた咆哮を上げて、貯めに貯めた、精液をスタティラの奥まで吐き散らしていた。

「ひいいいい!」

何かが自分の身体の中で広がるのを自覚したのか悲鳴じみた声を漏らすスタティラの身体の上に、俺は覆いかぶさる様に倒れこんだ。

それからお互い荒い息を吐き出しながら互いの身体のぬくもりを無言で感じていた。

「・・・シロウ様・・・」

「ん?ああ、ごめん重かったか?」

「いえ・・・大丈夫です。その・・・最後の方なんですが・・・」

「ああ、精液か」

「精液・・・ですか・・・」

「ああ、判りやすく言ってしまえば子供の種」

「えっ?こ、子供の種を・・・私に」

「ああ、今更だけど本当にごめん。外に出さなきゃならないのに」

「・・・シロウ様・・・私、シロウ様の子を産めるのですが?」

「え?あ〜今はまだなんとも言えない。もしかしたらだけど」

俺としてはそう言うしかなかった。

何しろ何の承諾もなしに中に出してしまったのだ。

もし彼女が危険日であったとしたらかなりの高確率で彼女は妊娠する。

俺の子を・・・

だが、俺の悔恨とは別にスタティラ本人はと言えば涙を流していた。

最初は後悔とか不安が入り混じったものかと思ったが違った。

スタティラは喜びの涙を流していた。

「嬉しい・・・シロウ様と結ばれただけでも幸福なのにシロウ様のお子様も産めるなんて・・・」

そう呟き今日、出会った中でも一番の笑顔で俺を力強く抱きつき、自分から唇を重ねていった・・・









そして翌日、

「はっはっはっ!エミヤどうだった!ダレイオスの娘は!!」

「イスカンダル王、声が大きいですよ」

いつもの様に王の斜め後ろにつき従う俺に破天荒な征服王は陽気な声をかける。

「そんな事を言って昨夜はお楽しみだったようだな。結局朝帰りだったからな」

「うぐ・・・」

そう、俺はあの後、スタティラを抱きこそしなかったが、寝台で共に寄り添い眠りについていた。

眼を覚ました時には既に朝日は昇り朝だった。

幸いと言うかこの人達は予測していたというか、俺のいた部屋は一晩貸切の状態になっており、だからこそ一晩ぐっすりと眠れた訳だが。

「王よ。スタティラ姫に俺の事を説明したと本人から聞きましたが」

「うむ、姫よりその頼みが出た時に直ぐに伝えた。お前の性格から言えばやるだけやってやり逃げ等出来る訳ないからのぉ」

それなりに長い付き合いだけあってこの人は俺の性格など当にお見通しの様だ。

「その点については感謝いたしますが・・・」

感謝したいが後々の事を考えると素直に感謝も出来ない。

「うむ、さて、お前も女の味を知ったな」

「へ?え、ええ・・・」

なんだか漠然とした不安がよぎる。

「最高だったじゃろう」

「は、はい・・・」

否定出来ない。

そして不安は更に倍増する。

「そこで、エミヤお主には定期的に女を抱いてもらう」

こういう嫌な予感だけは良く当る・・・じゃなくて!!

「な、何なんですか!藪から棒に、どんな理屈をつければ『そこで』と言う単語が出てくるんですか!」

「何単純よ。お前には己の為たる欲が異常に乏しい、それは昨日言ったと思うが、ならば自分のための欲望の最たるものである性欲を存分に出してもらおうと思ってな」

「何が思ってなですか!だ、大体どうやってそ、その・・・相手を見つけるんですか!まさかと思うが略奪して来いなんて抜かしたらまじで三行半突きつけるぞ!」

あまりにもあれな理屈に俺も臣下としての言葉使いを忘れて食って掛かる。

「そんな事誰が命じるか。娼婦を買えばよかろう」

「は?でもそんな金は・・・」

「何を言っておる。お主今までの功績でどれだけの報奨金を手に入れたと思っておるのだ?」

「へ?」

「昨日ほどと言わぬまでもそれなりの娼婦であればまだまだ百人は余裕で買えるぞ」

う、嘘だろ・・・

「嘘はついてはおらぬぞ。それだけお主の戦働きが良かったからな。はっはっはっ!存分に女を食らい夜の方面でも豪傑となれよエミヤ!!」

豪快に笑いその場を後にするイスカンダル王を尻目に俺は頭を垂れて、長く深い溜息を吐き続けた。

(師匠・・・早く俺を引き取りに来てくれ・・・)

多分この状況を面白がりしばらくは迎えに来ないであろう師に切実な思いをぶつけて・・・









ロンドン・・・そこの一角で征服王イスカンダルは、ある平行世界においての東方遠征で多大なる功績を残した臣下との昔話を肴に酒を飲んでいた。

無論聞き手は当の本人である衛宮士郎である。

「はっはっはっ!結局あれからお主百人斬りをやってのけたな」

「言葉を間違えないで下さい。俺が自発的にしたのではなく、貴方方が俺を引きずり回したのでしょう」

上機嫌でビールを(ちなみにグラスでもジョッキでもない。ピッチャーで飲んでいる。おまけに傍らにはビールサーバーが鎮座しそこから士郎がピッチャーにビールを注いでいる)飲み干しながらの話題は士郎の娼婦買いに付いてだった。

あれから士郎はイスカンダルの強制で各地を転戦しながらも、娼婦を買っては抱く性活を送る羽目になった。

欲望が極端に乏しい士郎であっても、人間の根本的な三大欲望の一つである性欲は歳相応に持ち合わせており、口ではどうこう言おうとも実際にはそれなりに愉しんでやっていた。

「そう言えば聞きそびれていたのですがイスカンダル陛下・・・スタティラは・・・俺がこっちに帰ってから彼女はどうなったんですか?」

「ああ、あ奴か。遠征が終わりお前が帰ってから・・・余はあ奴を形式上は妻として迎えた。

「やはり・・・そこはこっちの歴史の史実と同じですね」

歴史ではイスカンダルは東方遠征終了後自国マケドニアとペルシア融和の為両国の子息、子女の合同結婚式を行ったとされる。

その時イスカンダル自身もダレイオスの娘を娶ったのだが、その姫の名前はスタティラだった。

「まあ、あ奴が亡国の姫となったのも我々に一因があるからな・・・余が死んでから後については流石に判らん。まあ遺言でもあ奴については援助を惜しむなと命じたから大丈夫だと思うが・・・でだ」

そこでどうした事かニヤニヤ笑いながらイスカンダルは士郎を見る。

「な、何ですか?急に気味の悪い」

「うむ、お主の事があったから余は、あ奴に指一本たりとも触れてはおらぬ。だがの・・・あ奴どう言う訳かしばらくしてから赤子を産んだぞ。それも珍しい事に赤毛の赤子をな

その言葉に士郎の血の気が一瞬で消え失せた。

「あ、あの・・・それって・・・もしかして・・・もしかしなくても・・・」

「さてどうかのぉ、余は赤子の父親については何一つ聞かなかったからな。ただあ奴、赤子を見る度に心底から幸せそうにしておったのは間違いないが・・・どうしたエミヤ??」

「す、すいません、ちょっと、席をはず」

「ロック」

顔面蒼白になりながら席を立とうとした士郎を何処からともなく聖骸布が拘束し戸口に引き摺られていく。

外からは地獄や煉獄もまだ生ぬるいどろどろした瘴気が渦巻いているように見えた。

「あああああああ・・・い、イスカンダル陛下・・・どうかお助けを〜」

「すまぬのぅ、それに包まれたからには余でもどうする事は出来ぬ。まあ『お約束』と言う奴だと思って観念しておけ」

「ふざけんなぁあああ!こんなお約束いらねえぇぇぇぇ!!」

せめての抵抗であるかのように、士郎は何かに毒づきながら外に連れ出されていき、士郎が完全に外に出ると同時にドアは勝手に閉められた。

ここで世にも無残な惨劇が行われていると音でわかればまだましだが、外からは何一つ音は聞こえてこない。

それが逆に怖さをかもし出していた。

「・・・災難だったのぅエミヤ」

その災難を生み出した張本人であるイスカンダルはそう呑気に呟くと、一先ず残ったビールを一息にあおってそれから、傍らのビールサーバーを掴むやそこから直にビールを呑み始めていた。

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